(80) 長からむ 心も知らず 黒髪の
      乱れてけさは 物をこそ思へ 
                                            (待賢門院堀河)

    (歌意)末長く続くのかどうか
                    あなたのお心は分からないので、
     この乱れた黒髪のように、
                    私の心も乱れて
     今朝は物思いをしています。

      My doubt about his constancy
  Is difficult to bear;
  Tangled this morning are my thoughts,
  As is my long black hair.
  I wonder––Does he care?
               LADY HORIKAWA,
                        IN ATTENDANCE
                  ON THE DOWAGER EMPRESS
                       TAIKEN
平安時代の「通い婚」について 吉海直人氏監修 こんなに面白かった「百人一首」 PHP研究所発行に分かりやすく書いてあったので、そのまま引用すると
ほとんどの男性は、女性の人柄や家柄をうわさによって知る。そして、男性が女性に和歌を恋文として贈る。贈った恋文は、当の本人に届けられる前に、親や周辺の女房たちの間で回し読みされてチェックを受けなければならず、選んだ紙や筆跡などから、男性は教養の高さを見られていた。チェックを通ってからも女性の顔が見られるのはまだまだ先。合格点をもらって初めて、本人同士の和歌のやりとりが始まり、おたがいの合意があれば、夜、忍ぶようにして男性が女性に会いに行く。三日続けて通えば、夫婦と認められる。電灯もない平安時代のこと、たがいの顔もよく見えないままに夫婦になることを決めるのだから、まさに「肌が合う」ことが決め手といえるだろう。ふたりが明るいところで、たがいの顔をようやく確認できるのは、その後に行なわれる「所顕」(ところあらわし)という披露宴の席だ。
この歌では、今夜は訪ねてきてくれたけど、明日も訪れてくれるという保証はなく、不安を懐いて過ごすことになる。そのような心の乱れを、髪の乱れに掛けて詠んだ官能的な歌です。 写真では、友寝をして別れた朝の乱れ髪を、鏡の前で櫛を入れる不安げな女性の姿を想像してみてください。

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(81) ほととぎす  鳴きつる方を  ながむれば
    ただ有明の  月ぞ残れる 
          (後徳大寺左大臣)

(歌意) ほととぎすが鳴いたので
     そちらを眺めてみると、その姿はなく、
     ただ明け方の月だけが
     残っているばかりである。

    The cuckoo’s echo dies away,
    And lo! the branch is bare;
    I only see the morning moon,
    Whose light is fading there
    Before the daylight’s glare.
                THE MINISTER-OF-THE-LEFT
       OF THE TOKUDAI TEMPLE


その年に初めて聞くホトトギスの鳴き声のことを「忍音」(しのびね)といい、平安時代の人々は、それを早く聞くのを競って、徹夜で待ったそうです。この歌も、夏を告げる鳥、ホトトギスの忍音を聞こうと待っていたところに、突然最初の一声が聞こえたので、そちらを振り向くと、その方向には綺麗な有明の月が残っていたというそのままの情景を詠んでいますが、鳴き声が聞けて良かったですね。 写真からその声が聞こえてきませんか?


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